Brainwashed

George Harrison / Guitars, Ukulele, Banjulele, Bass , Keybords & Vocals
Jeff Lynne / Guitars,Bass, Keybords, percussions & Vocals
Dhani Harrison / Guitars, Wurlitzer & Vocals
Jim Keltner / Drums

Ray Cooper / Drums
Jools Holland / Piano
Harbie Flowers / Bass & Tuba
Joe Brown / Accoustic Guitar
Mark Flanagan / Accoustic Guitar
Jon Load / Piano
Sam Brown/Vocals
Bikram Ghosh / Tabla
Jane Lister / Harp
Isabela Borzymowska / Voice

Any Road
P2 Vatican Blues (Last Saturday Night)
Pisces Fish
Looking For My Life
Rising Sun
Marwa Blues

Stuck Inside A Cloud
Run So Far
Never Get Over You
Between The Devil And The Deep Blue Sea
Rocking Chair In Hawaii
Brainwashed

 ジョージのソロ名義としては実に15年ぶりの新作。その間にウィルベリーズやったり、来日してライヴ盤出したり、ビートルズやったり、"All Things Must Pass"のリマスター&再録やったり、そこそこ働いてはいたものの、純粋なジョージのスタジオソロ作品としては前作からこんなにも間が空いていたのだ。そして、"Cloud 9"の時と同様、「たまにリリースすれば傑作」と言うパターンを見事、キープしている。

 とまあ、こんな書き方を意図的にしてみたがこのアルバムは言うまでもなく(言うまでもないのが悲しい)ジョージの遺作なのだ。彼の純粋な意味でのラストアルバムであり、今後我々はジョージの新作を聴くことはない。出るとしてもそれは全て「未発表作品集」でしかないのだ。
 最初、ジョージの遺作集は"Legend Of Leg End"のタイトルで20曲以上が収録され、2002年初頭に発売になるとアナウンスされていた。しかし、1年近く待ってふたを開けてみれば(たったの!?)12曲入り、タイトルも"Brainwashed"になった。
 8曲以上が収録もれになったワケだが、その結果このアルバムは「遺作集=未発表曲集」の性格を捨て去り、完全な「新作アルバム」となった。
 1月や2月に、ジョージの残した音源を詰め込んだアルバムを作るのは簡単だっただろう。しかし、プロデュースに当たったダーニ・ハリスンとジェフ・リンはそれを良しとしなかった。何故なら、ジョージは(恐らく)死の間際まで「新作」のための作業を続けていたからであり、彼らの元には音楽とともにジョージの強い意志が収まったテープが残されていたのだ。これを無造作にリリースする人間が音楽家であるワケが無い。ジョージの友と息子にそんなジョージの意志を無にするような真似が出来るワケが無い。
 ジェフの頭にはジョージやポールがアンソロジーの時に言った言葉が響いていたのかもしれない。「ジョンが『あとはまかせた』とでも言って食事にでも行ってしまった、と考えることにした」ジョンをジョージに、バンド仲間としての立場をプロデューサーに置き換えたら、あとは適切な音を加えてミックスするだけだ。「だけだ」と言うのは簡単だが、彼らは1年かけて、ひたすら丁寧に「ジョージの置き土産」を磨いていった。その成果が、これだ。

 さて、前置きが異常に長くなった。本題はここから。まず"Any Road"からスタートするが、もういきなりジョージ節全開の軽快なポップソングだ。このメロディ、そしてスライドギター。サビでのふらついたような歌い方がたまらない。エンディング附近での叫び声(?)が楽しげでいい。
 ここでジョージは「バンジュレレ」なる楽器を弾き語っているが、これは「バンジョー+ウクレレ」な楽器だそうだ。まあ、(ジョージの大好きな楽器でもある)ウクレレの変種。今回のアルバムでは多くの曲でウクレレが使われている。"George Harrison"の頃からのトロピカル指向からこの楽器に行き着いたのかもしれないが、この楽器の持つ雰囲気のおかげで同アルバムに近いイメージを醸し出しているのかもしれない。

 "P2 Vatican Blues (Last Saturday Night)"はアルバム中で最もジェフ・リンの色が出た曲だと思われる。ジェフ自身のハーモニーヴォーカルが目立つせいもありサウンドはちょっとウィルベリーズのようだ。前作での"Wreck Of The Hespels"あたりを思い起こさせるリズム感だが、ヴォーカルに若干の弱々しさが感じられるのが結構晩年の録音かも、と思わせて微妙に寂しい。

 "Pisces Fish"はバラード的なナンバーで、ここではかなり低い音域まで降りて行く珍しいジョージの歌が聴ける。一切余計なことをしないシンプルに徹するジム・ケルトナーのドラムが素晴らしい。ここでもウクレレがかくし味になっている。

 "Looking For My Life"もジェフ・リン味をジョージ味に巧妙に忍び込ませたポップバラード。"This Is Love"をシンプルに料理した感じのサウンドと言えるかも。これもメロディが凄く良くて、シングルにも向いてる感じだ。
 さて、この曲を含む数曲には謎がある。つまり簡単にいえば、ドラマーがクレジットされていないのだ。一体誰が叩いているのだろう。シンプルで、サウンドの感触もケルトナーに似ているのだが、こういうシンプルなドラミングが得意な人、しかもジョージの親友を我々は知っているはずだ...いや、これは俺の妄想に過ぎないんだけど。

 テンポ感やストリングスがどうしてもビートルズを思い浮かべてしまう"Rising Sun"は個人的に気に入っている曲だ(いや、全部だが)。"Free As A BIrd"を思い浮かべる人も多いんじゃないだろうか。スライドギターはバッキングでストリングスの様に鳴っていて、これが実に味わい深い。それにアコースティック・ギターと重なるウクレレ(クレジットはないが、音はする)、こういう音を埋めてしまわずに分厚い弦と共存させてるあたりにもジェフ&ダーニの丁寧な仕事ぶりが良く解ると思う。

 "Marwa Blues"はブルースとはいうがトロピカルな感じのインストナンバー。ジョージのスライドギターを前面にフィーチャーした「水中っぽい」曲。ちょっとインドっぽい旋律のキーボードも入るが、「マルワ」ってのはインドの地名だというから納得。

 "Stuck Inside A Cloud"は最も(アルバムの)"George Harrison"っぽい雰囲気を持つ曲。2本重ねたスライドギターのリフとダーニのウーリッツァーによるバッキングが雰囲気を出していて、最高のメロディを支える。ジョージ自身気に入っていたらしいが、それはファンにとっても同じだ。

 "Run So Far"はエリック・クラプトンにプレゼントした曲のリメイクだが、このメロディ、ジョージ以外の誰に似合うっていうんだろう。実際、エリックのヴァージョンは音域も合ってないし、曲自体彼に似合っていない。
 ジョージ、ジェフ、ダーニの3人分入ったアコギの響きが凄く気持ちのいい演奏だ。ちなみにこの曲もドラムのクレジットがない。しかも、エリック版ではケルトナーが叩いているのだが、それとはフレーズが明らかに違う。勿論アレンジの差で、当然だが...「あの人」が叩いていたら、凄く嬉しいんだけど...スペシャル・サンクスに他の二人の「兄弟」を差し置いて夫人とともに載っている、ジョージの生涯の友だったら。

 "Never Get Over You"でもケルトナーの抑えたドラミングの素晴らしさが堪能できる。また、クレジット上はダーニの名前がない数少ない曲。極上のメロディ(自分の表現力の貧困さが恨めしい!)を持つバラード。

 "Between The Devil And The Deep Blue Sea"のみカヴァー曲で、しかもジュールズ・ホランドの番組出演時のスタジオライヴだ。既にブートなどでも聴けたが、そう言う曲をあえて入れたのは彼の「ウクレレ」という楽器への愛情故か。勿論バックのメンツも他の曲とは全く違うが、特に違和感は感じない。
 楽しげにウクレレを弾きがたるジョージだが、バックでハービー・フラワーズの吹くチューバがまたコミカルで楽しい。ジュールズや他のメンバーの演奏もノリノリ。

 "Rocking Chair In Hawaii"はタイトル通りリラックスしたトロピカルフォーク(?)って感じの曲。ダブルトラックによる一人デュエットの雰囲気もいい。ドブロによるスライドも土臭さよりトロピカル感があるのがジョージらしい。

 ラストで、タイトル曲"Brainwashed"は"Devil's Radio"の続編的な曲調と攻撃的な詞を持ったナンバー。「大人のティーンエイジャー」は最後までこういう曲をやっていたと思うと嬉しくなる。「宗教系+皮肉系」の歌詞は彼の集大成とも言えるか。ヴォーカルは若干ディラン風?サビの「God God God」は単純すぎるとも思えるが、それゆえにキャッチーであっという間に覚えてしまう。また、タブラを使った間奏からより力強い後半に移行するダイナミックさは圧巻。そしていきなりラストにはジョージ自身によるマントラの詠唱が...これが許せてしまうのもジョージゆえか。他の人がやったら「宗教くさい」って切り捨ててそうだけど。