Smile

The Beach Boys

 最初におことわりをする必要がある。まず、ある程度の音楽マニアには常識かもしれないが、この「スマイル」というアルバムは存在しない。これはビーチ・ボーイズ(というより、ブライアン・ウィルスン)が完成させられなかったアルバムであり、その未完成に終わった断片は後の多くの彼らのアルバムや編集盤、そしてブートレッグでのみ聴くことが出来る。

 ビーチボーイズのファン達は「最高傑作になるはずだった」このアルバムの幻影を追い求め、どうにかしてアルバムとしての「スマイル」を再現しようと試み続けている。それは実に楽しい作業で、俺も今回この文章を書くために曲を並べてみたが、正直、はまった。そして、意外な亊に気づいてしまったのだ。

 本題をあえて外れる。俺は「ブライアン・ウィルスン信者」が大嫌いだ。Vandaと言う雑誌があったのだけど、そこでのビーチボーイズ特集は酷いものだった。彼らの意見を総合するとまるで「ビーチボーイズはブライアンのバンド。全ての曲はブライアンの声で聞きたい。BBはペット・サウンズで解散すべきだった。マイクは敵。」と言う意見にさえ感じられる。これはいわゆる「レノン信者」と同じ言い草で、勿論これらの意見がクソであることは言うまでもない。
 "Good Vibration"や"God Only Knows"はカールの声でこそ生きる曲で(俺はカールの声が1番好きだ)、実際ブライアンヴァージョンの"Good Vibration"には完成テイクほどの魅力はない。マイクの巨大な貢献についてはわざわざ言うまでもないだろう。メインヴォーカリストであること以上に彼は絶対にBB5の「顔」なのだ(よくも悪くも、だが)。アメリカは(極論すれば)彼に熱狂している。亊ステージにおいてはマイク抜きのBB5など考えることは出来ない。それはブライアンでは無くマイクが今もビーチボーイズの名を継いでいることからも明らかだろう(繰り返すようだが、亊の是非はまた別問題だ)
 まあ、最近はマイクやカールも高く評価されていて(勿論ブルース、アル、デニスも)一時期(の、一部の人達)のような偏った意見は聞かれなくって来たようだ。実際、このテキストを構成するためにBBのファンページを多く見たが、ブライアン偏向的な意見は殆ど見られなかった。

 俺の本来の考えはこうだ。「"Smile"はブライアンが完成させられなかった失敗作。他のメンバーは何とか「平均点」のアルバムとして"Smiley Smile"を仕上げた。」
 さて、俺が気づいてしまった「事実」とは?つまり、この「スマイル」どうやら凄くいい作品なんである。これは参った。俺は「失敗作」スマイルをぶった切ろうと思ってこのテキストを書き始めたのだ。それを期待した人にも申し訳ないんだけど...
 何より、各収録曲のメロディがいい。"Heroes And Villains"や"Good Vibration"は言うまでもなく、例えば"Smiley Smile"にも収録の"Whind Chimes"や"Wonderful"。意外に埋もれてしまっていたが(ミックスなどの違いのせいもある)、"Smile"本来の流れ(例の裏ジャケ参考で、だが)の中で聴くと思ったより生きている。そして"Surf's Up"の美しさ。せめて"Smiley Smile"にこの曲だけでも収録できていれば評価は大きく違ったんじゃないだろうか。残念なことにこの名曲が発表されたのはあまりに遅かった。BB5どん底の時期に出され、シーンの流れに埋もれてしまったのだ。

 結果としてこのアルバムが完成しなかったのは、結局ブライアンに問題があったんだと思う。勿論キャピトルのプレッシャーもあった。しかし何より「ビートルズを超える」亊に固執しすぎ、ポップミュージックであることを忘れかけていたこと。これだけの名曲群の鮮度を保てなかったのは先進性にこだわるあまり余計なことをしすぎた、と言うところにあるだろう。ブライアンはこのアルバムを「名曲の集まり」として素直に完成させるべきだったのだ。"Pet Sounds"がそうだったように。それに足りるだけの素材はあったのだから。

 なお、今回検証するに当たって「スマイル商店街」さんによるアルバム再現(93年ヴァージョン)を参考にさせていただいた。(ただし俺ヴァージョンはブートを所有していないので正規発売曲のみで構成している)