Final Cut

The Post War Dream
Your Possible Pasts
One Of The Few
When Tigers Broke Free*
The Hero's Return
The Gunner's DreamParanoid Eyes
Get Your Filthy Hands Off My Desert
The Fretcher Memorial Home
Southampton Dock
The Final Cut
Not Now John
Two Suns In The Sunset

 ひとまずピンク・フロイドの「ラストアルバム」。少なくともロジャー・ウォータースはそう思っていた。だが結果としてラストにならなかったのはご存知の通り。勿論俺もこれを「ラスト」と言い張るつもりなどかけらも無い。

 本来は"The Wall"に入り切らなかった曲を集め、映画のサントラとしてリリースされるはずだったものだが、最終的には曲を書き足し、新たなコンセプトアルバムとして発売に至った。しかし、"The Wall"があの形で充分な完成度を見せていることから解る通り、「入り切らなかった曲」イコール「アウトテイク」もっと言ってしまえば「ボツ曲」である。
 実際、アルバムの大半の曲は"The Wall"収録曲のうち地味なタイプの曲によく似た曲調であり、アルバムは圧倒的にキャッチーさに欠けている。勿論それはコンセプト通りのものだったんだろうが、The Wallが重いテーマを扱いながらヒットシングルや、後のフロイドやロジャーのソロステージでの定番曲を産んだのに対し、このアルバムは全体がひたすら陰鬱なトーンで覆われている。ロジャーは「ポップヒットなんて用は無い」と思っていたのかもしれないが。

 だからと言って、全曲が良くないか、と言ったら全くそんなコトは無い。せっかくだから、いい曲を挙げて行きたい。
 シングルカットされた(唯一の「そう言うタイプ」の曲)"Not Now John"は、若干単調なきらいはあるが、"Comfortably Numb"と"Run Like Hell"を足して2で割ったような感じでもあるし、それに何故か後の「再結成フロイド」を思わせる瞬間もある(80年代ロック的と言うだけの話かも)。アルバム中で唯一デイヴのヴォーカルが聴ける曲でもあるこの曲は明らかに良く出来たロックナンバーだ。
 また、割りとキャッチーなパートをもつ"The Hero's Return"の様な曲もある。出だしはポップで、耳を惹き付けられるが、また暗い世界に入り込んでしまう。しかし、スローなパートでのメロディやデイヴのアコースティック・ギターは実に美しく、聴きどころと言える。

 「陰鬱系」の曲にも佳曲はある。オープニングの"The Post War Dream"は小曲ながらちょっといいメロディを持っているし、"The Fletcher Memorial Home"の「気持ち悪い心地よさ」はロジャー・ウォータース節炸裂、と言う感じで個人的には好きだ。なお、後半のデイヴの素晴らしいギターソロのバックで聴けるホーン系の音はまるでリック・ライトだが、既にクビにされていた彼は参加していない。生ホーンか、アンディ・ボウンか?
 ラストの"Two Suns In The Sunset"もいい曲だが、なんだか安っぽいサックスが邪魔だ。他の曲でもこの人(Raphael Ravenscroftと言う人らしい)は安っぽい、AOR臭のするサックスを吹いている。ディック・パリーにやらせれば良かったのに(パリーもそんなにいいプレイヤーではないが)。

 このように、良い曲はあるけど、やっぱりコレを「傑作」とはとてもじゃないけど呼べない。ロジャーは彼抜きで再始動したフロイドを「良く出来たまがいもの」と評した。だが、残念ながら彼自身は「良く出来ていない本物」を残してフロイドを終わらせようとしてしまったわけだな。プレイヤー気質のギルモアが「こんなモンで終わりなんてとんでもないぜ」くらい思っても、いや、思う方が普通だと思うね、俺は。


 *なお、現行盤(ベストアルバム"Echoes"リリース後のもの)には、4曲目に"When Tigers Broke Free"(これも「陰鬱系」の名曲)が追加収録されている。ボーナストラックとしてラストに付け加えたんじゃなくて、この位置に入れたのにはストーリー的にも意味があるのだろう。また、映画"The Wall"の挿入曲でもあるこの曲をここに入れたのは、やはり"The Wall"と"Final Cut"には密接な関係があることも意味しているのかもしれない。