Undercover

Undercover Of The Night
She Was Hot
Tie You Up (The Pain Of Love)
Wanna Hold You
Feel On Baby
Too Much Blood
Pretty Beat Up
Too Tough
All The Way Down
It Must Be Hell

 「鬼子」みたいなアルバムってあるよね。何とち狂っちゃったんだろう、みたいな。世界でもそう言うのに陥りやすいアーティストのトップクラスにいるのが、ポール・マッカートニーと、ミック・ジャガーだ。この二人の共通点は「現役コンプレックス」。「俺は今でもロック界の最先端にいる」と思い込みたがる性格。それで、その時代の音を常に取り入れていこうとするわけ。それは勿論アーティストとしては正しい姿勢で、彼らのそう言う部分は評価すべきだし、好きでもあるんだけど、じゃあ成功するか、と言うと必ずしもそうは行かない、と言うのが悲しいところ。ストーンズでは以前は"Their Satanic Majestie's Request"がそう言うアルバムといわれていたんだけど、最近は逆に評価が高くなっている。でもストーンズにはそう言うふうに呼ばれるアルバムがもう1枚(少なく見積もって)ある。それがこのアルバムだ。

 特に80年代終盤においてこのアルバムの評価は異常に低かった。このアルバムのサウンドには後にミックがソロ作"She's The Boss"の中で取り入れる手法がいくつか散見でき、それによって「ミック主導の実験色の強い作品」の様な扱いを受けていた気がする。特に日本ではキース原理主義がはびこっており、「ストーンズ=キース」「キース=ロックンロール=ストーンズ」「キースこそ正義」「ソロ活動をするミックは悪」と言う図式の中、「ミック色が強い=駄作」という扱いさえ受けていたと思えるのは被害妄想だろうか。じゃあ、ホントにミック色が強いのか、と考えてみる。世間では「とち狂っちゃった」ミックがヒップホップを取り入れた、と考えられているワケだけど...。

 まずキースは「ストーンズらしい」R&Rナンバー"Wanna Hold You"を歌っている。いつもの配分だ(キースが2曲歌うようになるのは次回作から)。しかしもう1曲、"Feel On Baby"はキースの大きな存在抜きには考えられない。この曲はレゲエ、と言うか本格的ダブナンバー。ストーンズにレゲエを持ち込んだのはキースだし、次回作では"Too Rude"でリードもとっているのだ。勿論この曲でもキースのヴォーカルは重要なパートを占めている。また、この曲はスライ・ダンバー(Perc)とロビー・シェイクスピア(B)がオーバーダブをして(ダブミックスも)いるが、タイトル曲"Undercover Of The Night"も彼らが参加している。そして、そのためにジャマイカのコンパスポイント・スタジオにテープをもって飛んだのもほかならぬキースだ。
 だから「キース色が強いからいい」というわけじゃない。続きがある。それを更にクリス・キムジーがリミックス、それを聴いたミックが「他の曲も同じように仕上げろ」と言って全体がこうなったというんだから、結果として仲が悪いなりに共同作業になってたとも考えられる。この人達の関係というのはジョンとポールやデイヴィス兄弟のように他人には解らない絆があるのだ。切り離して考えるなんて馬鹿なこと出来るわけないのである。

 さて、そんなこんなでこのアルバム、ストーンズ史上でも上位に数えられる「ファンキーストーン」だ。ざっと曲を紹介していこう。タイトル曲はヒップホップのリズムを取り入れた(12"ヴァージョンも最高!)80年代ファンクの傑作。詳細は既に書いた通りだ。
 "She Was Hot"は80年代ストーンズ流スタイルの定番R&R。"Some Girls"あたりから顕著なパンキッシュなビートが特徴のナンバーだ。スチュもピアノを弾いてるし、この辺なら保守的ファンも満足だろう。
 "Tie You Up"もこのアルバムでのストーンズを象徴するタイプの曲だ。ミックの太いヴォーカルと猥雑なコーラスが印象的。若干テンポが速すぎる印象があるのが残念。もうちょっとどっしりしたら最高だったんだろうが。
 キース色の強い2曲、"Wanna Hold You"と続く"Feel On Baby"はともに既に触れたが、前者は特にラフでルーズな雰囲気がいかにもキースを象徴している。だがチャーリーは相変わらず直線的なビートでパンクなのだ。
 ホーンも高らかに鳴り響く「デモニックファンク」(俺命名)"Too Much Blood"はこの路線の頂点。ミックの「ラップ」もクールで、しかも悪魔的。いわゆるディスコビートよりもうちょっとうねる感じの絶妙なリズムは何十分でも続いて欲しいと思えるが、その思いをかなえてくれる12インチヴァージョンは当時一世を風靡したアーサー・ベイカーがリミックス!(未聴。死ぬほど欲しい)この曲が俺のアルバム中フェイヴァリットナンバーだ。
 また「ストーンズファンキー化委員」ロン・ウッドがミック&キースと共作(事実上ロニーが書いた?)し、サックスでデヴィッド・サンボーンが参加した"Pretty Beat Up"もダンサブルだ。ちなみにこの曲ではワイマンとスチュがピアノを弾いている。
 終盤の弱さがこのアルバムの弱点だ。"Too Tough"はどこがどうとはいいにくいがなぜかパンチが足りない。ビートも弱いし、プロダクションも平板だ。"All The Way Down"も同様で、確かにいつものストーンズらしいのだが、どうにも埋め草臭さが漂っている。どちらも酷い曲ではなくて、若干弱いだけなのが残念なのだな。
 "It Must Be Hell"もこのアルバムでこのタイトルならもっと悪魔的なものを期待してしまう。なのにその期待は裏切られ、中途半端なロックナンバーが登場するのだ。B面の曲順が逆だったら、もっといいアルバムになっていたのではないだろうか。評価も違っていたかもしれない。残念でならない。

 俺は黒っぽいストーンズが好きだ。アフリカンな黒、ジャマイカンな黒、アメリカンな黒、デモニッシュな黒。ミックは悪魔的だったり、ロニーがファンキーだったり、キースはR&Rだしジャマイカンだ。チャーリーもジャズ的で、ビルはソウルフル。外部のミュージシャン達も思い思いに黒い。ストーンズはみんなばらばらに黒い。いろんな黒を混ぜるともっとカラフルな黒になる。そんなストーンズが好きなんだよね。

 もう1枚の「ファンキーストーン」の名盤"Black And Blue"と並んで、こいつが俺ベストの上位から落ちないのはそう言うワケなのだ。

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