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第9回 「他人に仕える心」を養う

この記事は時事通信社出版局発行「教員養成セミナー」に連載しているコラムです。

 

のっけから家族の話で恐縮だが、5歳になる娘が「競争ブーム(?)」である。とにかく人と張り合おうとする。例えばお友達とどちらが先にトイレに着くか競争したり、階段を上るのを競争したり・・・。そして負けると泣いてくやしがる。親ともトランプ遊びなどをして負けると、とても機嫌が悪くなる。これも一つの成長過程なのだろうが「一体誰に似たのか?」と妻と2人で頭を抱えている。


人と自分を比べ、人に負けたくないという競争心を持つことは、人間に本来備わっている性質であろうか。そういえば聖書にも、イエス・キリストの弟子たちが「誰が一番偉いか」と論じあっている場面が、何度も描かれている。あろうことか、最後の晩餐の席でさえ、そのような話題になったようだ。いつも人よりも上に立ちたい、偉い人と思われたいと考えていた弟子たちに対しイエスが諭した言葉が興味深い。「あなたがたの間で偉くなりたいと思う者は、みなに仕える者になりなさい。」聞いた者たちはびっくりしたに違いない。どのような文化であれ、どのような時代であれ、偉い人というのは「人に仕えられる人」と決まっているのだから。

競争心を持つこと自体は、自然なことだと思う。良い動機からくる健全な競争心であるなら、それは人を成長させ、社会を進歩させるだろう。しかし「勝つことだけが全て。負けたら自分の存在価値がない」という不健全な競争心だけになってしまったら、人間の心は貧しく、窮屈で、自分のことしか考えられなくなってしまうだろう。小さな頃から、不健全な競争心だけをあおられて成長してゆく子どもは、かわいそうだと思う。

人を押しのけてでも競争に勝つ“勝者”ではなくて、他の人を助け、人の役に立つ人が、本当に偉い人なのだと思えるようになれば、随分心が豊かになるし、人生の選択肢も増えるのではないだろうか。


健全な競争心をはぐくむと同時に、他の人を愛して、喜んで仕える心を養うことも、教育の重要な役割だと思う。

 

 

  2007年5月号掲載


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